結論: 「この号に該当する」という全国共通の答えはありません
「条文のどこかに書いてあるはず」と思いますよね。
ところが、これが探しても出てこないんです。
金額で使い分けること自体は、全国の自治体で広く行われている実務です。
なのに、その根拠になる号はどこにも書いていない——この記事では、このちょっと不思議な状況をひも解きます。
まず前提: 入札には2つの方式があります
| 方式 | ひとことで言うと |
|---|
| 一般競争入札 | 「参加したい方はどうぞ」と広く呼びかける方式 |
| 指名競争入札 | 自治体が「この会社に声をかけよう」と選んで招待する方式 |
原則は、広く参加を募る一般競争入札です。
招待制の指名競争入札にしてよい場合は、ルール(地方自治法施行令167条)で3つに限定されています。
- 契約の性質や目的が、一般競争入札に向かないとき(1号)
- 参加できる業者がそもそも少ないとき(2号)
- 一般競争入札にすると、かえって不利なとき(3号)
この(1号)(2号)……が、ご質問の「号」です(条文の中の項目番号のことです)。そして見てのとおり、この3つに「金額が低いとき」はありません。
国にはあるのに、自治体にはない
同じ「役所の契約」でも、国と自治体ではルールブックが別々です。並べてみると——
| 「少額なら指名競争入札OK」というルール |
|---|
| 国の契約 | ある(工事・製造なら800万円以下など、金額まではっきり書いてある) |
| 自治体の契約 | ない(先ほどの3つの場合だけ) |
国の役所のルール(会計法など)には「予定価格が少額なら指名競争入札にできる」という条文がはっきりあります。
ところが、自治体のルールには、それに当たる号がないんです。
だから、金額ラインで指名競争入札を使いたい自治体は、3つの号のどれかに「これに当たります」と説明をつけることになり、そのつけ方が自治体によって分かれます。
「規則で決めてあるなら、それが根拠では?」
「でも、うちの自治体の規則には金額の表が載ってるよ?」と思った方もいるかもしれません。
たしかに、規則に金額ラインを定めている自治体もあります。
ただ、大事なのは「規則に書いてあるか」ではなく、「その金額を規則で決めていいよと、施行令が言っているか」です。
ここは、随意契約(入札をせずに、相手を選んで結ぶ契約)の金額ラインと比べると分かりやすくなります。
| 随意契約の金額ライン | 指名競争入札の金額ライン |
|---|
| 施行令に「規則で定める額」とあるか | ある(施行令167条の2) | ない(施行令167条) |
| 規則に書かれた額の位置づけ | 国から任されて決めた額 | 自治体が自分で引いたライン |
随意契約のほうは、施行令自身が「いくらまで随意契約にできるかは、(国が決めた上限の範囲内で)それぞれの自治体の規則で決めてください」と書いています。
「金額はお任せします」というバトンが、国から自治体へ渡っているイメージです。
だから、随意契約では、施行令と規則をセットで読めば、金額ラインの根拠を確認できます。
一方、指名競争入札には、このバトンがありません。
規則や基準に金額ラインを書くこと自体はできますが、それは国から任された額ではなく、自治体が運用のために自分で引いたラインです。
だからこそ「そのラインって、3つの号のどれに当たるの?」という、この記事の問いが残るわけです。
実際には、どう扱われているの?
公開されている資料を見ると、大きく2つのパターンがあります。
- 金額ラインだけを公開し、号までは書かない(公開資料だけでは、号をどう整理しているのかは分かりません)
- 号ごとに「どんな場合に使うか」の基準を公開する
「予定価格○円以下は指名競争入札(第○号)」のように、金額と号をセットで書いた公開文書は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。
どの号に当てはめるの? — 読み方は2つあります
どの号に当てはめるにしても、土台にある理屈は同じです。
一般競争入札は、広く募集を告知して、参加資格を審査して……と、時間も手間もかかる方式です。
数十万円の契約にこの手続きをフルでかけると、契約の中身に対して手間が重すぎる、ということが起きます。
1,000円の買い物のために、往復2,000円の電車代をかけて遠くの安売り店まで行くような、釣り合いの悪さです。
実際、指名競争入札には「事務の負担や経費を軽くできる」という長所がある——これは総務省の資料でも挙げられています。
この理屈を、条文のどの号に乗せるか。考えられる読み方は2つあります。
- 1号に乗せる: 少額の案件にフルの手続きをかけるのは、契約の性質や目的に照らして「一般競争入札に向かない」と読む
- 3号に乗せる: 手間とのバランスから、「一般競争入札にすると、かえって不利」と読む

読者の疑問: で、結局どっちが正解なの?
正直に言うと、「少額だから1号」「少額だから3号」と対応をはっきり書いた公的な解説は、今回の調査では見つかりませんでした。
「指名競争入札にする案件は、原則として1号に該当するものとして扱う」と、自ら基準を定めている自治体も中にはあります(この姿勢自体は、とても誠実だと思います)。
ただ、これは、あくまでその自治体が自分のところの運用を整理したルールにすぎません。
「少額なら1号」という全国共通の答えが見つかった、という話ではないんです。
ここは公式の答え合わせができない領域なんです。だからこそ、自治体によって整理が分かれます。
そもそも「指名しない」を選んだ自治体もあります
ここまで「どの号に当てはめるか」を見てきましたが、実は、金額ラインで指名競争入札に回すこと自体をやめた自治体もあります。
「随意契約にできる少額のラインを超えた案件は、原則として一般競争入札」という割り切りです。
きっかけは、2006年ごろに相次いだ官製談合事件です。
とくに公共工事の分野で、指名競争入札そのものを減らす流れが全国に広がり、都道府県の集まり(全国知事会)も「指名競争入札の原則廃止」を打ち出しました。
「どの号に当てはめるか」という悩みそのものを、なくしてしまったわけですね。
まとめ
- 金額で一般競争入札と指名競争入札を使い分けること自体は、全国で広く行われている実務
- ただ、「金額が低いから指名競争入札」に当たる号は、施行令167条にない(国の契約にはあるルールが、自治体にはない)
- 規則に金額ラインが書いてあっても、随意契約とちがい、「国から任された額」ではない
- だから当てはめ方は分かれる(1号と読む考え方も、3号と読む考え方もある)
- なかには、金額ラインの指名そのものをやめて「原則一般競争入札」にかじを切った自治体もある
- 「この号が正解」と言い切れる話ではないからこそ、最後は「自分の団体の整理が、167条の3つの号に沿って説明できるか」の確認を