結論: 工事監理の方式を3つ紹介。「誰に頼むか」が決まれば、発注方法は自然と決まります
設計した事業者がいちばん設計内容に詳しいんだから、監理もそのまま頼むのが自然じゃないの? と思いますよね。
その感覚は間違っていません。
設計をした事業者に特命随契でそのまま頼んでいる自治体は、実際にあります。
一方で「他の事業者でもOK」ということで、あらためて競争入札にかけている自治体もあります。
どちらかが間違っているわけではないんです。どちらも「あり」なんです。
ただ「どちらでもいい」というわけではありません。
設計者に頼むほうがいい工事もあれば、別の事業者に頼むほうがいい工事もあるからです。
では、どんな工事なら設計者がよくて、どんな工事なら別の事業者でもいいのでしょうか?
ここが見えてくれば、随意契約か競争入札かはおのずと答えが出ます。
その手がかりになるのが、国土交通省と全国の都道府県・政令指定都市がまとめた「建築工事監理等業務委託の進め方(公共建築の工事監理等業務委託マニュアル)」です。
マニュアルでは、監理を誰に任せるかを3つの方式に分けて、それぞれがどんな工事に向くかを解説しています。
この記事では、その3つを順に紹介します。
3つの特徴を知って、案件ごとに使い分ける。
これがこの記事の結論です。
なので「自治体ごとにどちらか一方に決めておく」という話ではなくて、同じ自治体の中でも案件ごとに使い分けることになります。
とはいえ「特徴を知って選べ」と言われて選べるなら、誰も苦労しませんよね。
そこで用意したのが、迷ったときに使える監理者を選ぶための4ステップです。
上から順に自分の案件へ当てはめていくと、合う方式が見えてきます。
どの方式とも切っても切り離せない「設計意図伝達業務」にも、あわせてふれていきます。
それでは順番に見ていきましょう。
3つの方式の特徴 — 一括委託・第三者監理・自主監理
そもそも工事監理とは、工事が設計図書(設計図や仕様書)のとおりに進んでいるかを確認する業務のことです。
建築士法に定義がある、法律上の言葉です。
しかも建築基準法は、一定規模の建築工事では建築士である工事監理者を置いてくださいねと、建築主(発注者)に義務づけています。
こうした工事では「監理をやるかどうか」に選択の余地はなく、考えるのは「誰にやってもらうか」です。
その「誰にやってもらうか」の選択肢として、マニュアルは3つの方式を挙げています。
① 一括委託方式 — 設計した事務所に、監理もまとめて頼む
設計業務を受注した設計事務所に、工事監理もまとめて頼む方式です。
質問にあった「設計をした事業者への特命随契」は、この方式を随意契約で行うパターンですね。
強みは、話の早さです。
設計から関わっている事務所が現場も見るので、情報共有がスムーズです。
現場から図面について質問が来ても、すぐ答えられます。
ただし注意点もあります。
この方式では自分の設計を自分でチェックすることになるので、どうしてもチェックが甘くなりがちです。
これは設計事務所がいいかげんにやっているという話ではありません。
人は誰でも自分のつくったものには甘くなりやすいものです。
自分で書いた文章を読み返したのに、誤字に気づけなかった経験ってありませんか? それと同じです。
なので一括委託を選ぶときは、チェックが甘くならない工夫が必要になります(特命随契の準備の章で説明しますね)。
② 第三者監理方式 — 設計とは別の事務所に、監理を頼む
設計をした事務所とは別の事務所に、工事監理を頼む方式です。
競争入札で監理業務の受注者を選ぶのは、主にこの方式のときです。
強みは、第三者の目が入ることです。
設計に関わっていない事務所が、チェックに専念します。
ただし関わる事務所が増えるぶん、連絡や調整の手間は増えます。
そして監理者は自分で設計したわけではないので、図面から読み取れる情報だけで仕事をすることになります。
ところが、その肝心の図面には「答え」だけが書かれていて、その答えを選んだ理由までは書かれていません。
たとえば指定していた照明器具が廃番になり、施工者から「同等品に変えたいです」と相談が来たとします。
その器具を選んだ理由が明るさなのか、静かさなのか、見た目なのか。
理由が分からないと、何をもって「同等」と言えるのか判断できませんよね。
この「選んだ理由」を、工事の間も設計者から教えてもらえるようにする。
それが「設計意図伝達業務」です(次の章の主役なので、ここでは名前だけ覚えてください)。
どうして設計者がそのまま監理しちゃダメなの?
実は工事監理は、かつては設計をした事務所にそのまま頼むのが普通でした。
ところが阪神・淡路大震災などをきっかけに、建物の品質確保がいっそう重視されるようになりました。
監理を民間に委託しながらも品質を確保するためには「つくる人と確認する人を分ける」第三者性が大切だという考え方から、第三者監理が導入されてきたという背景があります。
さらに平成17年(2005年)に発覚した構造計算書偽装事件、いわゆる「姉歯事件」をきっかけに建築基準法や建築士法が改正。
あわせて建築士法に基づく国のルール(告示)も見直され、設計者に一括発注されていた業務が「設計の意図を現場に伝える業務(設計意図伝達)」と「工事が図面どおりか確認する業務(工事監理)」に区分されました。
これにより業務の中身と責任の関係が明確になり、監理を第三者へ頼みやすくなったわけです。
③ 自主監理方式 — 発注者が自分で監理する
外部委託せず、発注者側の職員が自分で工事監理をする方式です。

読者の疑問: 建築士を置く義務はどうなるの?
自主監理でも建築士を置く義務は変わらないので、資格を持つ職員を工事監理者に配置することになります。
強みは、監理業務そのものの委託料がかからないことと、確認や判断を庁内だけで進められる手軽さです。
とはいえ「そもそも建築士の資格を持つ職員なんて、うちにはいないよ」という自治体も多いと思います。
仮にいたとしても、資格があればいいという話でもなく、相応の技術力と体制が求められます。
設計意図伝達業務とは? 図面に書ききれない意図を現場に伝える仕事
工事が始まると、施工者からこんな質問が出てきます。
「ここは図面のとおりだと施工しづらいのですが、どうしたらいいですか?」
現場としては、やりやすい方法に変えてあげたいところです。
でも、変えていいかどうかは、設計者が元の方法を選んだ理由も考慮しないといけません。
ところが図面と仕様書には、その理由までは書かれていないわけです。
そこで、工事の間も設計者に関わり続けてもらい、質問に答えたり助言したりしてもらう。
これが設計意図伝達業務です。
建築士法に基づく国のルール(告示)は、この業務の中身を大きく2つ挙げています。
- 設計図書についての質疑応答や説明
- 工事材料や設備機器を選ぶときの、設計意図の観点からの検討・助言
この2つとも、確実に答えられるのは図面を描いた設計者です。
どんなに優秀な監理者でも、他人の頭の中までは読めませんからね。
だから国も告示の中で、工事の段階で設計者が行うことに合理性がある業務だと位置づけているわけですね。
となると、頼む相手は設計をした事務所しかありません。発注のかたちは、おのずと随意契約になります。
設計意図伝達がいる場合・いらない場合の線引き
「で、うちの案件でも意図伝達を頼まないとだめなの?」が気になるところですよね。
方式ごとの扱いは次のとおりです。
| 監理の方式 | 意図伝達業務 | どういう形か |
|---|
| ① 一括委託 | 契約に含まれる | 監理とセットで設計事務所に頼む |
| ② 第三者監理 | 必要 | 設計者に意図伝達、別の事務所に監理、の2本立て |
| ③ 自主監理 | 原則必要 | 設計者に意図伝達だけ頼む(例外は下記) |
誤解されやすいのが①です。
設計した事務所が監理するなら、わざわざ意図を伝えてもらう必要はなさそうに思えます。
でも、施工者の質問に答えたり「同等品でいいか」を助言したりという意図伝達の仕事は、一括委託でも同じように発生します。
意図伝達が「いらなくなる」のではなく、監理とまとめて同じ事務所に頼んでいるだけなんです。
だから仕様書には両方の業務を記し、積算にも含めて契約します。
そして省略の例としてマニュアルが挙げているのは、自主監理方式での「標準的な工法による外壁補修工事等」だけです。
なぜ省けるのかまでは、マニュアルは具体的に説明していません。
ただ筆者は「自主監理だから」ではなく、この種の工事は工法が規格化されていて、伝えるべき設計意図がほとんどないからだと読んでいます。
では、こうした標準的な工事の監理を外部に委託した場合はどうでしょうか?
建築士の職員がいないなどの理由で自主監理を選べず、外部委託になることは実務では珍しくないと思います。
その場合の意図伝達の有無までは、マニュアルに書かれていません。
ただ同じ理屈で考えれば、省略する判断はあり得ると筆者は考えています。
これで3つの方式と意図伝達の必要性がそろいました。あとはこれを自分の案件に当てはめる番です。
次の章から、そのための道具「監理者を選ぶための4ステップ」を見ていきます。
監理者を選ぶための4ステップ — 迷ったらこの順番で考える
次の4つの問いを、上から順に自分の案件へ当てはめてみてください。
途中でYESが出たら、そこに書いてある方式が有力候補です。
なお、この4つのステップは、迷ったとき用にマニュアルの考え方を筆者が並べ直したものです。
| 順番 | 問いかけ | YESなら |
|---|
| ステップ1 | 実施例の少ない特殊な技術・工法を使う? | 設計者に一括委託が有力 |
| ステップ2 | 小規模、または設計から工事まで極めて短期間? | 設計者に一括委託が有力 |
| ステップ3 | 職員に技術力と体制があり、現場も近い? | 自主監理が有力 |
| ステップ4 | ここまで全部NOだった | 第三者監理(意図伝達とセット) |
ステップ1: 特殊な技術・工法を使う? — 使うなら設計者に一括
最初の問いは、工事の内容です。
実施例の少ない特殊な技術や工法が使われている工事は、設計者以外では監理が困難だとマニュアルに書かれています。
マニュアルが例に挙げるのは、既存施設の免震化工事(地震の揺れを吸収する装置を、建物に後から組み込む工事)です。
この工法は「この手順どおりに施工すれば性能が出る」という評価を個別に受けています。
現場では、施工のやり方がその手順とずれていないかを、工事のあいだ継続的に確認することになります。
そしてその確認には、なぜこの工法で、なぜこの手順なのかという、図面を描いた本人の頭の中にある情報が欠かせません。
だから分けずに、設計者に監理まで頼むのが有力になります。
設計者に頼むと決めれば、契約のかたちは特命随契になります。
ただ随意契約で頼むには「なぜ競争入札にかけないのか」という理由の説明が必要です。
その理由はまさに、いま見てきた「この工事は設計者でないと監理が困難」という事情そのものです。
工事の内容に照らして、自分の言葉で説明できるようにしておきましょう(準備の章で詳しく扱います)。
ステップ2: 小規模・短期間? — そうなら、これも設計者に一括
次の問いは、規模と時間です。
小規模な工事や、設計から工事まで極めて短期間で終わる案件が、これに当たります。
こうした案件で設計と監理を別に頼むと、契約が2本に増えて、選定も支払いも二重になります。
事務手続きまで含めて考えると非効率、というのがマニュアルの説明です。
ここで気づいた方もいるかもしれません。
ステップ1もステップ2も答えは同じ「設計者に一括」ですが、理由が正反対です。
ステップ1は「設計者にしかできない」という情報の理由、ステップ2は「分けるだけ損」という効率の理由。
起案書に書く理由も、それぞれ変わってきます。
ステップ3: 自分たちで見られる? — 見られるなら自主監理
3つ目の問いは、こちらの体制です。
職員に相応の技術力と体制があるか。
現場は事務所から近いか。
両方YESなら、発注者自らが監理するのが最も効率的なケースです。
このとき意図伝達は、原則どおり設計者に頼みます。
標準的な工法の簡単な工事なら、前の章の例外(省略)を検討する余地もあります。
ステップ4: ここまで全部NO — 第三者監理+意図伝達
特殊でもなく、小さくもなく、自分たちで見る体制もない。
そんな一般的な工事こそ、第三者監理方式の出番です。
一定の技術力のある事務所なら、設計図書から設計内容を読み取って、施工図の検討や工事の確認ができるからです。
現場が遠い案件で、現場近くの事務所に監理を頼めるのも、この方式の利点です。
意図伝達は設計者に、監理は別の事務所に。2本立てで発注します。
実際の案件では、条件が2つ以上当てはまることもあります。
たとえば、小規模で短い工事(ステップ2がYES)だけれど、職員が自分で見られる体制もある(ステップ3もYES)、というケースです。
答えが一括委託と自主監理に割れるので、ステップの順番どおり機械的に採らず、どの事情が重いかを比べて決めてください。
こうして方式さえ固まれば、随意契約か競争入札か、契約のかたちはおのずと決まりますよね。
筆者も、原則として工事監理を競争入札にかける運用を経験してきました。
新築や大規模な改修では、設計意図伝達業務を設計者に別途発注する、ステップ4のやり方です。
そのうえで、特殊な工事のときに特命随契を検討する。考える順番はこのとおりでした。
なお、このマニュアルは公共建築(営繕)向けです。
道路や橋などの土木工事には、そのまま当てはめないよう注意してください。
特命随意契約を選ぶときの準備 — チェック役の分離と随意契約理由書への備え
特命随契を選んだときには、やっておきたい準備が2つあります。
1つは、一括委託の注意点だった「自分の設計を自分でチェックする甘さ」への備え。
もう1つは「なぜ競争入札にかけないのか」を説明できるようにしておくことです。
備え1: チェック役の分離 — 設計の責任者と監理の責任者を別の人に
実は国土交通省では、自分たちの工事で設計者に監理を随意契約する場合に、ある条件を1つ付けているんです。
それは、監理業務の管理技術者(業務を統括する責任者)を、設計業務の管理技術者とは別の人にすることです。
同じ事務所の中でも、設計の責任者と監理の責任者を別の人にして、セルフチェックにならないようにする工夫です。
これは国の運用例ですが、自治体の特命随契でもそのまま使えます。
起案の際は、この条件を仕様書に入れることも検討してみてください。
備え2: 随意契約理由書 — 「その工事ならでは」の事情を自分の言葉で
随意契約にするには、法令に当てはまる理由がいりますし、多くの自治体ではその理由書も作成しないといけないですよね。
このとき「設計をした事業者がいちばん詳しいから」だけでは、理由として弱いんです。
それはどの工事にも言えちゃいますからね。
書くべきなのは、その工事ならではの事情のほうです。
なお随意契約の理由の書き方や構成については、別の記事で詳しく説明しています。
随意契約の理由書、何をどう書けばいい?
また実際の書きぶりは、参考文献に載せた柏市の公表資料が参考になります。工事監理を特命随契にした理由が、そのまま公開されています。
実は筆者も、この理由書は何度も書いてきました。
正直、毎回悩みます。
頭では「この工事は設計者じゃないと無理だ」と分かっているのに、いざ文章にしようとすると、決裁で突っ込まれない書き方をあれこれ考えたりして、なかなか筆が進まないんです。
でも、ここまで読んできたあなたなら、理由の材料はもうそろっているはずです。
あとは自分の言葉にする、最後のひとふんばりです。
根拠のある随意契約を堂々と起案してください。
まとめ
- 特命随契も競争入札も「あり」。自治体ごとに決めるのではなく、誰に監理を頼むかを案件ごとに考えれば、契約のかたちはおのずと決まる
- 工事監理の方式は主に3つ。設計した事務所にまとめて頼む「一括委託」、別の事務所に頼む「第三者監理」、発注者の職員が自分で行う「自主監理」
- 使い分けは4つのステップの順に考える。特殊性 → 規模・期間 → 自前の体制 → 残りは第三者監理
- 設計意図伝達業務は、図面を描いた設計者にしかできない業務。一括委託でもなくならない(監理とまとめて頼んでいるだけ)。省略できるのは、伝えるべき設計意図がほとんどない標準的な工事(外壁補修など)だけ
- 特命随契にするなら、やっておきたい備えが2つ。チェック役の分離(設計と監理の責任者を別の人に)と、その工事ならではの事情を随意契約理由書に書けるようにしておくこと
- マニュアルは公共建築向け。土木工事にはそのまま当てはめない